何がしてーんだ!俺を殺そうとしてるのか! あの日を振り返る

私が勤めていた会社は地方にある小さな工場です。

主にステンレス製のパイプの製造や加工を行っている会社です。

私はその会社で“造管”という部署に所属しいていました。

 

造管の仕事は読んで字のごとくパイプを造る作業を行います。

コイル状に巻かれた、なが~いステンレスの板を機械にセットし、機械を通すことで筒状になるよう誘導して、溶接ボックスの中で溶接を行い、パイプ状になった物をロールと呼ばれる治具で断面が丸くなるように加工していきます。

 

うちの会社では“造管9割”と言われています。

それは造管での不具合はその後の工程で修正不能だからです。

 

そんな部署で私は12年間働いてきました。

小さな企業の“あるある話”ですが、教育プログラムなど存在しません。

基本的には“気合と根性”

「上手くできないのはヘタだから」「上手くできないのはやる気がないからだ」と罵られておしまいです。

その罵ってる姿はまるで“輩”です。

昭和のヤクザ映画にでてくるような分かりやすいガラの悪い人間そのものです。

造管に配属された人達はそんな事態に遭遇しないように必死で腕を磨きます。

私も例外ではありません。

その甲斐あってかパイプを造る技術はつきましたが、作業に取り組む動機はかなり不純です。

人事考課の制度もないので良い製品を造ったとしても給与や賞与には反映せれません。

腕を磨くのは“怒られたくないから”

私の勤める部署では、その一点のみの為に従業員は努力に励みます。

 

ただこの数年流れが変わってきました。

社歴の浅い従業員が技術不足で不良をだしてもが罵られるような事態も無くなりました。

パワハラを意識したのか、今時の若者に合わせて方針を変えたのか…

とにかく恐怖によって技術の向上を図るという風土は薄れていきました。

その結果、若者の技術レベルなかなか上がらなくなりました。

教育プログラムも無いのに、今まで技術を向上させる為に行っていた事を止めてしまったらレベルが落ちるのは当然のことです。

そのことによって難易度の高い製品を造るのは汚らしく罵られた世代に集中する事になります。

私もその中のひとりになります。

 

三年ぐらい前から生産がスタートしたそのパイプは非常に難易度の高いパイプでした。

通常、溶接部分の強度を高めるには溶接部の厚さを厚くする必要がありますが、そのパイプには厚さの上限が定められています。

強度を重視すれば厚さが外れる可能性が上がり、厚さを重視すれば強度に不安が残ります。

また真円度というパイプの丸さの基準があるのですが、一般的なパイプであれば0.3でかなり丸いとの評価ですが、そのパイプでは上限が0.3なので公差ギリギリという判断がなされます。

そんな難易度の高いパイプの注文が入った時は決まって私の予定に組み込まれます。

先ほど書いたように非常に難易度が高いので、かなり神経をすり減らしてパイプを造ります。

 

そんな苦労のすえ、やっとできたパイプを確認の為に検査に持っていくと不思議な事が起こります。

「公差に入っているけどギリギリなので直してください」

検査でOKがでる。→工場長が確認→OKだが気になる所を指摘する。→私の部署の上司に直すように指示を出す。→上司は私にそれを伝える。→上司にどこが悪いのかを確認→解らないけど工場長が言ってるから直して…→終了

一度目は「難易度の高いパイプだから神経質になっているのだろう」とすんなり受け入れることができましたが、それが毎回となると頭がおかしくなってきます。

なぜなら次に造ったパイプは前回の指摘をふまえて造ったパイプだからです。

直せと言われても、その時点で全力を尽くしているので、それ以上できる事はありません。

指摘された部分に対してなんらかの修正をしても、その修正による影響で別の部分に新たな気になる部分が現れます。

結局何度かやり取りをして、何に納得したのか解らぬままOKが出て造管がスタートするという事が定番になりました。

 

私はこのやり取りがすごく嫌でした。

正解が解らないこと。

正解だと思っていることが否定されること。

やりとりをしている間は仕事がまったく進まないこと。

仕事が進まなくても、その後の予定は変わらないこと。

 

このやり取りをすればするほど、会社に対して不信感が募り、自分自身の心が壊れていくのを自覚していました。

何が正解なのか決めてほしい。

求める品質を満たすためにラインを改造してほしい。

新しい治具を造ってほしい。

と、基準の見直しや改善案をだしたものの、結果は無回答。

そして、その後もこのやり取りが続きます。

 

今から半年ぐらい前でしょうか、ストレスはピークに達していました。

いつものように「ダメじゃないけど直すように」という上司に怒りが爆発してしまいました。

「ダメ出しばっかりで品質を良くする取り組みをまったくしないで何がしてーんだ!

てめーは何もしねーで俺を追い込んで楽しいのか? 一緒にやった 要求にこたえた それでもダメだったなら、もっと頑張ろうと思えるけど、お前見て見ぬふりで何もしてねーじゃねーか! 何がしてーんだ! 俺を殺そうとしてるのか!」

とキレてしまいました。

書いてて思うのは、頭のおかしい人のセリフだなってことなんだけど、実際に頭がおかしくなってたので、今振り返ってこの言葉を発する以外に、この不毛はやり取りから逃れる手段はなかったのかなって思います。

ブチギレた私に対して上司は「追い込んでいるつもりはない。こうだったらいいなっていう要望を伝えているだけ」と言いました。

その言葉を聞いた時、私は上司に対して完全に心を閉ざしました。

工場長の要求に応えるでもなく、私の要望にも応えるのでもなく、自分の行動を顧みることもなく、自分は悪くないと主張するだけ…

この人も工場長と私との板挟みで辛かったという事は理解できる。

工場長の要求が高すぎることも、私が精一杯やってる事も、正確に把握しながら、何もしなかった事を、私はたった一言詫びてほしかっただけなのだ。

この人には上司としての器は無いと、私が判断するには十分すぎる一言でした。

 

その日から、この不毛はやり取りは一切無くなりました。

おそらく工場長から何らかの要望があっても公差に入っている場合には上司の裁量で私に言わなくなったのだと思います。

ストレスの元となる行為な無くなりましたが、それと引き換えに不信感という大きな爆弾を抱えてしまいました。

結果として、その爆弾にせいで休職に追い込まれるわけです。

不信感のある人がいる。

それは、ただそれだけで大きなストレスになります。

振り返ってみて、そのことを再確認して「やっぱり復帰は無理かな?」と、改めておもいました。

う~ん…

どうしようかなぁ…